Miyukeyの気まぐれブログ

愛媛県在住のアラフォー主婦です。本、洋画、訪れた場所などの感想を気まぐれに、かつ自由に綴りたいと思います☆笑顔の扉の”key"を見つけられる毎日になることを祈って♪現在は、仕事繁忙期のため月に2回の更新となっていますが、よろしくお願いいたします☆

今村夏子の小説「星の子」から宗教の闇について考える

「宗教」と聞いて、何を思い浮かべますか。

ある人にとっては心の支えや救いになるもの、

でも、宗教によっては、人生を破壊してしまうほどの

恐ろしい力を持つものでもあります。

今回は、病弱な娘を助けたい一心で

あやしい宗教にのめりこんでしまった夫婦を両親に持つ

女の子の日常を切り取った小説

今村夏子さんの「星の子」をご紹介します

 

☆ 映画化もされていますが、今回は小説のご紹介です。

(「星の子」の映画はこちら↓↓)

 

↓↓ ☆「時間を忘れて読みふけりたい人のための本」という見出しで、

こちらの記事でもご紹介しましたが、今回は、もう少し詳しく書きたいと思います。↓↓

 

miyukey.hatenablog.com

 

1、「星の子」 ストーリー

 林ちひろは、中学3年生。

出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、その信仰は少しずつ家族のかたちを歪めていく…。

野間文芸新人賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされた著者の代表作。 

引用:星の子 (朝日文庫)

 

 生後間もないころから虚弱体質だった娘を助けたくて

困り果てていた両親。

会社の同僚がくれた、たった一本の水をきっかけに

宗教にずぶずぶとのめりこんでいくことになる。

頭の上に「特別な水」を浸したタオルを載せれば

エネルギーが満ち溢れると信じて疑わない両親。

どこにでもある平凡で温かな家庭が

坂を転がるようにして落ちていくさまを

娘:林ちひろの視点から描いた作品。

ちひろの運命は?

両親は自分たちの過ちに気付くのか?

宗教と、それにハマる両親を嫌悪した姉が行きつく先は?

ページをめくる手が止まらない小説です。

 

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はじまりは一本のペットボトルの水だった・・・

2、その愛は本物か

 

この小説は児童虐待や暴力、貧困家庭といったようなものを

描いていると解釈する読者も多いようです。

私の個人的な感想としては、虐待とはまた違うと思いました。

少なくとも、主人公:ちひろの両親は、二人の娘を心から愛していた。

それがわかる箇所が、小説のそこかしこに出てきます。

彼らは宗教を通してしか

娘たちを愛せなかったのでしょうか。

もし、あのとき、宗教に出会わなかったら・・・?

 

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幼いながらも、その宗教の異常さ、怪しさに

気付いていた5歳年上の姉:まーちゃんとは異なり、

主人公:ちひろは両親を嫌いではないし

離れようともしません。

宗教を信じているわけでも信じていないわけでもなく

両親に連れられて教会や集会に通うちひろ

たんたんと語られる

孤独な学校生活、困窮していく家庭環境、

集会に集まる宗教グループの子供たちとの関係。

日本ではタブー視される「あやしい宗教」について

踏み込んでいく今村夏子さんの作家としての力量が

ひしひしと伝わってきます。

 

3、宗教の闇

 

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とても印象的なシーンがあります。

信者の会員たちと研修旅行へ行く場面。

満天の星が見える大浴場で、みんなで湯船につかって

流れ星を見ています。

みんな見えたのに、ちひろだけなかなか流れ星を見られない。

ちひろが流れ星を見つけるまで、

ずーーーっと湯船につかって待ち続ける女の子たち。

みんなのぼせているのに、

一人が流れ星を見ていないから、

見た人まで、ずっと湯船にいるのです。

 

「そろそろあがる?」

「だめだめ。ちーちゃんが流れ星見るまで。見てないのはちーちゃんだけなんだから」

「いいよ。先にあがってて」

「だめだよう。みんなで一斉に宇宙のエネルギーを取りこむんだから」

「そうだよ。ちーちゃんが見えるまで待ってる」

 

 

それは、優しさなのでしょうか?

笑顔で、世話好きで、一見、友達想いに見える女の子たち。

でも・・・

暴力的なまでの「幸せの強要」。

私は小説の全編を通して、それを感じました。

ひとりにしてほしくても、静かにしてほしくても干渉し

「一緒に幸せになろう」と言う人々。

幸せなんて人それぞれなのに、タイミングだってまちまちなのに

「いっしょに」「ひとつの幸せを」追い求めようとする人々。

「あやしい宗教」の本当の怖さとは、そういう「幸せの押し付け」なのだと

今村夏子さんは言いたかったのかもしれないと思いました。

 

まだまだ印象的なシーンは数多くありますが

ネタバレになるので控えたいと思います。

登場人物も一人一人、とても強烈で面白く

考えれば考えるほど深みにはまる小説です。

 

4、小川洋子×今村夏子の対談が面白すぎる

 

 

 こちらの文庫本には、作者:今村夏子さんが敬愛してやまない

作家:小川洋子さんとの対談が収録してあります。

その対談がとても充実していて、

この小説を理解するのに大変役に立ちました。

小川洋子さんといえば、ノーベル文学賞の有力候補とも言われ

数々のベストセラー小説で世界中に注目されている作家。

文学賞の選考委員も数多く勤めており

今村夏子さんの文学賞受賞(太宰治賞、三島由紀夫賞河合隼雄物語賞、芥川賞)

の選考にも携わりました。

そんな大先輩作家との対談を読んでいると

今村夏子さんの緊張感、

そして謙虚な人となりまでもが伝わってくるようです。

小説の裏話から創作秘話、作品との向き合い方まで。

タイプの異なる二人の大作家の話がとても面白かったです。

 

5、たまたま見かけた光景から物語は生まれた(対談より)

 

この小説は今村夏子さんが「怪しい振興宗教」というものに

大きな問題意識を持ち、「宗教」をテーマにした小説を書こうと

それなりに覚悟を決めて書いた作品・・・私はそう思っていました。

その思い込みが、対談で見事にひっくり返されました。

 

 

 宗教をテーマにしようとは最初は思っていませんでした。

だいぶ前に、頭にペットボトルの水を掛け合う、高齢の男女のペアを目撃したんです。

それがちょっと不気味に思えて、そのときのアルバイト先の人に

「近所にこんな人がいるんだけど」って話したら、「えっ?かっぱじゃない?」って言われて。

それがずっと心に残っていました。

あれを物語にできないかなと考えているうちに、

何かの儀式みたいだなと思えてきて、そこから宗教に結び付けていきました。

 (今村夏子・談)

 

 ほんの一瞬、偶然に見かけた光景から、

物語を紡ぎだしていく・・・

小説家というのは本当にすごいと思いました。

もちろん、最初に大きなテーマや問題提起があって

そこからストーリーが生み出されることも

往々にしてあるのでしょうが、

少なくとも「星の子」は強烈に心に残る情景があって

そこから生み出された小説でした。

そういえば、もう数年前になりますが

小説家の江國香織さんがテレビに出演して

「ここにケーキがあったとしたら、

そのケーキを見て、そこから、物語を『ねつ造』していくのです。

ただただ、『ねつ造』して、それで、小説のカタチになっていくんです」

と言っていたのを思い出しました。

強烈に心に残った「点」を

ストーリーという「線」へと変え、

自分の胸の中に眠っていた潜在的な問題を引き出し、

小説が出来上がっていく・・・

そのプロセスが、とても面白く感じました。

何度も読み返したくなる対談です。

 

 

  6、最後に

 

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 今回は今村夏子さんの小説「星の子」をご紹介しました。

あやしい振興宗教に、どっぷりとハマってしまった両親に

育てられた娘、ちひろの視線から浮き彫りにされる宗教の闇。

一見「優しさ」や「愛情」、「笑顔」に見えるものの奥にひそむ

暴力的なまでの「幸せの強要」。

特に、今村夏子さんが編集者と話し合いながら、

迷い、悩んで書き直したというラストは、

人によって、様々な受け止め方ができると思います。

私はこのラストこそが「宗教の闇」の象徴だと感じました。

あなたはどう感じるでしょうか?

ぜひお手にとって、小説の世界に身を投じてみてください。

一ページ読んだら、ページをめくる手が止まらなくなりますよ。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 数々の文学賞を手にしながらも、今村夏子さんが書いた小説は

以下の5冊のみ。

これから、どんな作品が出版されるのか、とても楽しみですね。

ご本人は「自分の経験をもとに書いているので、それを使い果たしたら

もう書けない、書くことがない」と対談で語っていますが

これからもずっと書き続けて頂きたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆この記事で使用した画像はフリー素材PIXABAYから頂いたものです。

https://pixabay.com/ja/

 

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