Miyukeyの気まぐれブログ

愛媛県在住のアラフォー主婦です。本、洋画、訪れた場所などの感想を気まぐれに、かつ自由に綴りたいと思います☆笑顔の扉の”key"を見つけられる毎日になることを祈って♪現在は、仕事繁忙期のため月に2回の更新となっていますが、よろしくお願いいたします☆

芥川賞受賞作!古川真人「背高泡立草」の感想


 

【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草

 

家がもし話せたら、どんなことを話すのだろう?

何世代もの家族が暮らしてきた古い家。

考えてみれば家は、住まう家族の物語や歴史を見つめているものだ。

この小説は、「家」というものを軸に

家族の繋がり、人々の悲喜こもごも、時の流れ、

そして長崎の小さな島の移り変わりを描いている。

 一家で草刈りに行くところから物語は始まり、

今はもう誰もがぼんやりとしか覚えていない過去を

さかのぼっていく。

海を渡って一旗揚げたい夫と、それについて行かざるをえない妻。

海を渡った夫婦が売りに出した家は酒屋をしていた男が買い取り、

移り住む。

敗戦後には難破した密航船で溺れかけた外国人たちを休ませるために

家の土間が使われる。

島でクジラ漁が盛んであったときは青年が刃刺しになるための無言の修業を積んだ。

また、グレかけた中学生がカヌーで島に辿り着き、

その家にカヌーを置いて帰ったこともあった。

そんな様々な人間模様、ストーリーが

一家の草刈りの合間に挟みこまれていて面白い。

様々な草が海のように生い茂った場所に

まるで島のようにぽつんと佇む納屋。

そこに奈美たち一家は草刈りに行くのだ。

 大学中退後、6年間の無職生活を経て、

4度目の芥川賞候補作で受賞を手にした著者、古川真人さんは

芥川賞受賞インタビューで

「家族や親族って、まさにこの小説の『草を刈る』こともそうなんですけど、

目的や意味がよくわからない集まりが多いじゃないですか。

でも、一見無意味に思えるその行為を続けることが、

結果的に家族や親族を結び付けているんです

そういう類の集まりがなくなったら、それはもう、

ただの書類上の関係にしか過ぎない」

と語る。(文藝春秋2020年3月号)

なぜ毎年、すぐに伸びてしまう草を刈るため駆り出されねばならないのかと

奈美は思いながら

それでも、その集まりは、きっと来年もある。再来年も。その次も。

今、八十五歳を過ぎた敬子婆はいついなくなるかわからない。

奈美の伯母も母も定年を過ぎて老いが目立ち始めた。

一人、二人と家族が減り、けれど結婚する者もいて増え、

顔ぶれが変わっていっても、

やっぱり「一族」が繋がっていく。

そして、それを、家が見つめ、島が抱く。

永遠に続くものなど何もないが、形を変えながら

脈々と続いていく繋がりと時の流れ。

芥川賞選考委員の宮本輝は、作品中に挿話される三つの物語は

「古い家の雑草刈りに集まった主人公たちが生まれ育った平戸の島

そのものの「血」を象徴するメタファだと解釈した」

と評した。(文藝春秋2020年3月号芥川賞選評より)

言い得て妙である。

 

 

今回、ご紹介しました古川真人さんの「背高泡立草」の全文と

芥川賞受賞インタビュー、芥川賞選評の他、

24年間芥川賞の選考委員を務めた宮本輝さんの退任の辞や

芥川賞作家小山田浩子さんの巻頭随筆など、

読みごたえたっぷりの一冊です。↓↓

 

 

 「背高泡立草」の単行本は、こちらから↓↓↓

 

【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草

【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草

 

 

芥川賞作家、今村夏子さんのデビュー作「こちらあみ子」の感想です。

すばらしい一冊なので、おすすめです。↓↓↓

miyukey.hatenablog.com

 

 

私が大好きなおすすめ本を紹介しています。ご覧いただければ嬉しいです☆↓↓

miyukey.hatenablog.com

 

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海に囲まれた長崎の小さな島。海の向こうからやってくる者、自由を求めて海を渡る者。膨大な時の流れの中の多くのストーリーを抱きながら、島は今日も静かに人々を見守る。

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古い納屋を覆い隠すように生い茂る雑草は外来種もあれば在来種もある。島の歴史を作ってきた人々のメタファーのようである。

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著者・古川真人さんは大学中退後、6年間の無職生活を経て、4度目の芥川賞候補となった本作で受賞した。著者が本当に描きたかったものは、なんだったのか、ぜひ読んでみてください。