Miyukeyの気まぐれブログ

愛媛県在住のアラフォー主婦です。本、洋画、訪れた場所などの感想を気まぐれに、かつ自由に綴りたいと思います☆笑顔の扉の”key"を見つけられる毎日になることを祈って♪現在は、仕事繁忙期のため月に2回の更新となっていますが、よろしくお願いいたします☆

衝撃の結末!「朝の少女」(マイケル・ドリス著)はネイティブ・アメリカンの美しくも残酷な物語

 

先月、実家に帰ったとき、本棚で懐かしい本と再会した。

マイケル・ドリス「朝の少女」。

そうそう、こんな本もあったんだった、と

ページをめくってみると、

この本を初めて手にした時のことが鮮明に蘇ってきた。

本はタイム・カプセルだと思う。

初めて読んだ時の気持ちや空気感が閉じ込められている。

あの頃はずいぶん話題になった本だから

もしかすると、このブログを読んでくださっている方の

本棚にも並んでいるかもしれない。

もう18年も前に買った本で、その当時、本屋さんへ行くと

マイケル・ドリスの他の本とともに、この本が

山ほど平積みにされていたものだけれど

最近は全く見かけない。

著者が亡くなっていることもあるのかもしれないけれど

こんな良い本は読み継がれてほしいものだと思う。

調べてみると、アマゾンでは、なんとか売っているようだ。

 

朝の少女 (新潮文庫)
 

 

18年ぶりに「朝の少女」を読み返し、

汚れなき心を持つネイティブ・アメリカンたちの美しく温かな日々、

豊かな自然の中で成長していく少年少女たちの姿に

心を打たれた。

でも、すっかり忘れていたのだ、この物語の結末を。

そして、初めて読んだ時と同じように深い衝撃を受けた

今回は、この物語について書きたいと思う。

 

朝の少女 (新潮文庫)

 

1、姉弟の心の成長

 

15世紀後半のネイティブ・アメリカン

サン・サルバドル島アラワク族インディアンであると思われる)

姉弟の物語。

朝型の少女「モーニング・ガール(朝の少女)」と

その弟で夜型の少年「スター・ボーイ(星の子)」は

お互いがわかりあえず口争いが絶えない。

大いなる自然の中でのびのびと暮らす二人。

温かく見守る両親のもとで、

次第にお互いがなくてはならない大切な存在だと気付いていく

姉と弟の心の成長を描く。

 

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 大自然の中をかけまわる少年少女の姿が見えるようだ

2、失ったものは

「朝の少女」が暮らす島には

文明と呼べるものは何一つない。

例えば、鏡すらもない。

少女は自分の顔を見るために湖の水面を見たり

顔を触ったり、父親の瞳を覗きこんだりして

自分の顔を確かめる。

 

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便利な道具や文明と引き換えに私たちが失ったもの、

現代にはないものが、この物語にはぎっしりと詰まっている。

人々は自然と共存し、自然を神と畏れ敬って共に生きていたのだ。

そして、そんな世界では、嵐の日に家に帰りそびれた

弟・「星の子」が大きな木に抱かれて、

もうとうに亡くなったおじいちゃんと話しながら夜を明かす、なんてことが

実際に起こっても何もおかしくないと思える。

死者と話したり、少年が岩になったり、

この物語には伝説めいた不思議なことが描かれるけれど

それがすんなりと違和感なく受け入れられるのは

澄み渡った純粋そのものの少年少女たちの視線で

それらが語られるせいだろう。

 

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少年「星の子」は死者の顔がびっしりと刻み込まれている不思議な木に守られて嵐の夜を過ごす

 

3、普遍性

 

現代の私たちと同じように

この島の人々のもとにも容赦なく試練は訪れる。

生まれて来るはずだった妹が死んでしまったり

嵐で村の家のほとんどが吹き飛ばされたり

親戚同士でわかりあえず仲たがいしてしまったり

私たちの身に起こるようなことも、彼らを容赦なく打ちのめす。

それでも人々は、命以上に大切なものはないと、

一家全員で支え合い、助け合いながら前向きに

乗り越えていくのだ。

その姿が、とても温かく、美しい。

現代に生きる私たちとは時代も場所も環境も

全く異なる世界に生きる家族の話でありながら、

生と死、病、天災、諍いといった、この世に共通の試練においては

私たちとなんら変わりはなく、それらを懸命に受け止めようとして

成長していく少年少女の姿が、力をくれる。

 

3、筆者が一番書きたかったことは  衝撃の結末

 

ここからはネタバレとなります。

お読みになりたくない方は、4章「作者マイケル・ドリスの闇」に飛んでください 

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平穏で平和で、美しい、光に満ち溢れた輝く物語。

それが、最後のたった2ページで打ち砕かれる。

衝撃的であり、恐ろしく不穏なラスト。

主人公・「朝の少女」はいつも通り海へ行き、

見たことがないカヌーに乗った人々に出会う。

彼らとは言葉も通じず、身なりもまったく違う。

それでも朝の少女は、その純粋さゆえに彼らを客と迎え

友情を確信するけれど・・・

実は、彼らはコロンブスなのだった。

ラストの2ページは、1492年10月11日のコロンブスの手記。

裸で歩き回り、武器を知らず、

友好の印として惜しみなく持てるものを差し出した先住民たちを

「知性をそなえた、良き召使いになるだろう」

と記している。

キリスト教に改宗させ、言葉と尊厳を奪い、先住民たちの何人かを

連れ帰るつもりでいる。

それまでの物語が、一点の曇りもない澄み切った

美しいストーリーであるからこそ、

この島の人々の生活の終わりを予感させるラストは

とても残酷で恐ろしい。

けれど、目を背けることはできない。

これは、確かに現実に起こった事実なのだから。

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だれもがコロンブスのしたことを知識として知っているが、

これほどの衝撃を持って、私たち日本人が身近なこととして

捉えることはなかったのではないかと思う。

 マイケル・ドリスは、数字を用いず、

先住民に対してコロンブス一行がしたことを詳細に記すのでもなく、

たった2ページで、私たちに訴えかけた。

どれだけ平穏で平和で、美しい人々の生活が一瞬にして奪われたか

それがどれほど残酷で悲しい歴史かと、

私たちの目の前に突き出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 4、作者マイケル・ドリスの闇

 アメリカ先住民の血をひくマイケル・ドリスは

数々の大学で教壇に立ち、

アメリカ先住民プログラムを設立した。

同じアメリカ先住民の血をひくルイーズ・アードリックとともに

夫婦で執筆活動を続け

ノンフィクション、小説の両分野で高い評価を受けた。

輝かしい業績を残しながらも、

彼は52歳で自殺している。

子どもを6人も残して。

 

この物語は、訳者・灰谷健次郎

「感情と感性があらゆる存在物、そして自分と自分につながる生命に向けて

きわめて繊細にゆれ動くさまを、見事に、純粋に描写し得た物語」と

「解説あとがき」で評価したように、

姉弟の成長物語としてだけでも十分、成り立つ。

それでも、作者が本当に書きたかったのは、

ラストの2ページであったのだと思う。

アメリカ先住民の悲しい運命と奪われた尊厳、暮らしを研究し続けて来た

マイケル・ドリスだからこそ書きえた物語。

 

こんなに強く、明確なメッセージを現代に生きる私たちに発することができる

作家が、自ら命を絶ってしまったことが惜しい。

そして、いま、もう本屋でこの本に出会う人がいないことが悲しい。

ずっと読み継がれて欲しい一冊だから。

 

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この作品にこめられた平和への願い、祈り、メッセージはこれからもずっと私たちの心に宿っている。



 

 5、最後に

文明とは何か。文明の中に生きているわたしたちは

いったい何者なのかと呻くような自問を発せざるを得ない

灰谷健次郎「解説・あとがき」より)

 

子どもでも楽しめる物語の中にこめられた

強烈なメッセージ。

この一冊はぜひ、大人にこそ読んでほしい本だ。

そして考えたい。

一番大切なものは何なのか。

それを私たちは失い、あるいは忘れてしまっていないか。

マイケル・ドリスが私たちに問いかける問いに

私たちは即答できるのだろうか。

 

↓↓残念ながら、現在、書店では売っていないようなので

お読みになりたい方はアマゾンから。↓↓

 

朝の少女 (新潮文庫)
 

 

↓↓ ネイティブ・アメリカンとは直接関係ありませんが、ちょうどこの本を読んでいるとき

インドの先住民族のこちらのアートを観に行き、胸に迫るものがありました。

宜しければご覧ください。↓↓

 

miyukey.hatenablog.com

 

マイケル・ドリスのその他の作品

 

森の少年

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水の国を見た少年

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青い湖水に黄色い筏

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☆ この記事の画像は全てフリー素材PIXABAYから頂きました。

https://pixabay.com/ja/

 

<本が好きな人のための過去記事>

 

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