日本が誇るガラス芸術家;藤田喬平の世界を
堪能できる美しい美術館をご紹介します。
1、「夢を入れる箱」
「この箱には夢を入れてください」
世界各国のインタビュアーに囲まれて
「この箱には何を入れたらいいのですか?」
と問われた時、
藤田喬平はそう答えたといいます。
そのインタビュー以来、藤田の作品は世界中に
「ドリームボックス」として広まりました。
夢を入れる箱・・・。
なんて美しい表現なのだろう。
私が初めて藤田喬平の作品に出会ったのは
もう5年も前、岐阜県の飛騨高山美術館でのこと。
それ以来、私の脳裏にはきらびやかな箱とともに
「夢を入れる箱をつくるガラス芸術家」として
藤田喬平の名前が刻まれていました。
まさか、旅先の松島に、藤田喬平ガラス美術館があるとは・・・!
藤田 喬平(ふじた きょうへい、1921年4月28日 - 2004年9月18日)は、東京生まれのガラス工芸家。
東京美術学校で彫金を学ぶが、途中でガラス工芸に転向する。その後、イタリアで学んだ色ガラスと金箔を混ぜた飾筥(かざりばこ)で独自のガラス工芸分野を確立した。
1989年(平成元年)日本芸術院会員、1997年(平成9年)文化功労者、1999年(平成11年)、市川市名誉市民、2002年(平成14年)文化勲章受章[1]。
引用:
早速、藤田喬平ガラス美術館へ向かいました。
2、流動ガラスの魔力(第一展示室)
まず入ってすぐに目に飛び込んでくるのは
藤田がイタリア・ヴェニスで制作したオブジェ「流」という
巨大な壺です。
その圧倒的な存在感に息を飲みます。
3、息子:藤田潤作品に魅了される(第一展示室)
第一展示室には、藤田喬平の代表作である飾り箱の他に
息子:藤田潤の作品が数多く展示されています。
その作品群がとにかく素晴らしかった・・・
吸い込まれるような青色の箱が4つほど展示されています。
それは、まるで紺碧の海を、ひとつの箱に閉じ込めたかのような・・・
ガラス越しで見つめているだけで、触れていないのに
そのサラサラとした質感やガラスの重みまでもが伝わってきました。
藤田潤作品は、その色や質感、デザインから
自然=大地、海、空、地球・・・万物の生命を感じさせるものが多いと感じました。
一方で、藤田喬平の飾り箱は、
雅(みやび)。
重箱を思わせるフォルムに
金や朱を散らしたデザインが施されています。
日本の伝統美。
もしこの箱が人間に生まれ変わったなら、
皇室の幼き姫君になるのではないでしょうか?
そんな想像をしてみるのも、また楽しいものです。
この箱は、どんな夢を秘めた姫君なのでしょう?
4、ヴェニスの熱気と喧騒(第二展示室)
藤田喬平がイタリアに渡り、ヴェネツィアでガラス制作を始めたのは
1977年、56歳の時のことだそうです。
56歳という年を考えれば、若くはないと思ってしまいがちですが
藤田はイタリアで吸収した学びから独自のスタイルを生み出し
次々と作品を発表。
数々の栄誉賞に輝くのです。
第二展示室にはヴェネツィアで制作された作品が
ずらりと並びます。
私は19歳の時、旅行でヴェニスの街を訪れました。
もうかなり前のことになってしまいましたが、あの町は
今でも私の胸の中で色褪せることなく輝いています。
ガラスの街、ヴェニス。
ゴンドラで渡った細い路地や真っ青な海の中に佇む教会、
ゴンドラをこぐ音と、ゴンドリエーレが口ずさむカンツォーネ。
まさにヴェニスらしいデザインと色合いで、
あの街の輝く思い出を運んできてくれました。
そして、一番、胸を打たれた作品は・・・
不思議なことに、このオブジェの前に立つと
聞こえてくるのです、ヴェネツィア・カーニバルの歓声が。
真冬のヴェニスの喧騒と陽気な音楽、
浮かれ踊る人々の熱気、宙を舞う紙吹雪。
仮面をつけ、着飾った人々が歩く足音も。
藤田喬平が、何をテーマにこのオブジェを作ったかは知りません。
あなたは、このオブジェの前に立ったとき、何が聞こえるでしょうか。
ぜひ、実際に訪れてお試しください^^
5、「瑞巌寺を想う」
この作品は、藤田喬平が松島をテーマに制作した作品です。
国宝:瑞巌寺の杉並木と本堂を
伊達政宗の兜と重ね合わせて表現しているそうです。
沁みわたる深い緑と、政宗公の兜の雄々しさ。
松島の静けさと美しさが、ぎゅっと凝縮されて
ガラスに閉じ込められているようで
心の中も、しんと静まりかえる気がしました。
「松島とヴェニスは似ている」
そんな言葉を藤田喬平は残しているそうです。
私は松島の街にヴェニスとの共通点を見つけられませんでしたが
ヴェニスに長年住み、松島で自らの美術館開館に携わった藤田が
そう言っているのだから、まちがいないでしょう。
もしご存命だったなら、どのあたりが似ているのか、
詳しく聞いてみたかったと思います。
6、芸術家:藤田喬平の挑戦
第二展示室には藤田喬平の晩年の作品も
展示されています。
亡くなる2年前、2002年に発表した新作「Bacchus」は
翌年、美術名典にも選定されました。
和の伝統美を表現した飾り箱で一躍注目された藤田が
晩年、取り組んだテーマは果物。
「同じことをやっていても意味がない」という言葉とともに
常に新しい可能性を模索し、意欲的に制作を続けた藤田に
2002年、文化勲章が贈られました。
過去の成功に捕らわれることなく、常に前を向き
今までなかったものを生み出すことに情熱を注いだ藤田喬平の
芸術家としての信念が伝わる一作です。
2004年9月に亡くなった藤田喬平の最後の作品にして代表作「睡蓮」。
どこかしんと静かな穏やかさを感じさせるガラスの睡蓮は
藤田の心を表した作品といえるかもしれません。
57年間のガラス造形作家としての制作の最後を飾った「睡蓮」。
83歳で亡くなるその年まで、芸術家として作品を発表し続けた
藤田の情熱を感じました。
7、明かりの芸術(ペンダントの間)
鏡に囲まれた「ペンダントの間」には
藤田喬平のスタンド作品やランプシェイドなどが展示されています。
柔らかな優しい光が反射し、心もほぐれていくような空間。
8、最後に
日本の伝統美をガラスで表現し、一躍、世界に注目された
藤田喬平。
イタリアのヴェニスでのガラス制作を経て、
常に新しい芸術の可能性を追求し続けた藤田の作品群は、
どれも胸を打つものでした。
決して作品数は多いとはいえませんが
美術館内は美しいガラス作品の光と輝きに満ちた
非日常の世界でした。
「この箱には夢を入れてください」
藤田喬平が世界に放ったこの言葉どおり、
箱、ツボ、ランプ、オブジェに至るまで、
どの作品にも観る人々の夢が、
そして何よりも、藤田喬平自身の夢と野望が宿っているように思えました。
藤田が「ヴェニスに似ている」と語った松島を訪れたなら
ぜひ、この藤田喬平ガラス美術館を訪れ、
夢の世界に浸ってみてください。
<おまけ>
藤田喬平ガラス美術館には、素晴らしい水上庭園、
ガラスのチャペル、そしてそれらが見渡せる展望台、
ガラス製品が買えるミュージアムショップと
ティールームがあります。
芸術作品を堪能した後は、
庭園をゆっくりと散策なんて、いかがでしょうか?
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
藤田喬平ガラス美術へ行かれる際は、HPで開館日をお確かめください。
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