もう20年以上も前、高校生だった頃に感動した
カポーティの「ティファニーで朝食を」。
ふと目に留まったティファニーブルーの
ブックカバーがきっかけで、再読することにしました。
再読することの醍醐味は、
旧友に再会できた時のような懐かしい喜びを感じられること。
記憶の底に、かすかに残っている感動を思い出し
「ああ、そういえば、ここの箇所に胸を打たれたんだった」
「このストーリーが大好きだったなー」
と、感動を新たにできること。
そして、もうひとつは、初めて読んだ頃の自分とも再会できることです。
あの頃の自分と、いまの自分。
失ってしまったものと、得てきたもの。
本を通して、若かった自分との間を隔てている膨大な時間、
また、その間に経験してきたこと、知ったこと、学んだことについて
考える機会を得ました。
再読って、タイムマシンのようですね。
初めてこの小説を読んだときは、瀧口直太朗の翻訳でした。
いま、出回っているのは村上春樹訳。
海外の名作は様々な翻訳が出て
時代に即した表現が生み出されていくのが魅力です。
1、「ティファニーで朝食を」 ホリーの孤独
表題作については、映画のイメージのほうが強いのではないでしょうか。
私の大好きな映画、オードリー・ヘップバーン主演の「ティファニーで朝食を」。
この短編を読んでいる間中、オードリー・ヘップバーンの美しい姿を
見ている気がしました。
でも実は映画と小説では、かなり違っている点があります。
ラストで、主人公ホリーが真実の愛を見つけるハッピーエンドの映画とは異なり
小説では、ホリーは心から愛した男性に振られ、流産し、
大切にしていたネコは見つけられず、失意の中からまた再出発するという
ストーリーになっています。
その強さとしなやかさが、ホリーらしくて、最高に美しい。
泥棒をしなければ生きていけないほどの貧しい生い立ちから
したたかに生きてきたホリーが、
どんなことがあっても上を向いて、ひたすら「自由」を求めていく姿は
潔くて、神々しさまで感じられるのです。
名刺に書かれた「旅行中(トラヴェリング)」という言葉を、
ストーリー全般を通して、より忠実に描き出しているのが小説だといえそうです。
輝くような美貌と無邪気さ、優雅な品の良さで、
たちまち周りの男性をとりこにしてしまうホリー。
美しく着飾り、自由気ままに生きているように見えるホリーの
暗い過去や、心の奥に抱える孤独をより深く描いているのも、
小説の特徴だといえるのではないでしょうか。
野生の生き物にいったん心を注いだら、あなたは空を見上げて人生を送ることになる。(中略)
空を見上げているほうが、空の上で暮らすよりはずっといいのよ。
空なんてただからっぽで、だだっ広いだけ。そこは雷鳴がとどろき、ものごとが消え失せていく場所なの。
(P116)
自分を野生の生き物に例えたホリーの言葉。
ホリーの繊細な心、震えるような孤独が伝わってきます。
2、心をつかむアイテム①自由なホリーを象徴する鳥かご
映画「ティファニーで朝食を」は、
オードリー・ヘップバーンのファッションやヘアスタイルが
とっても素敵!!
高校生の頃、そのあまりの美しさに心躍らせて夢中になったことを
思い出します。
オードリーが着こなすブラックドレス、真珠のネックレスと大き目のサングラス、
スナック菓子のおまけの指輪に彫ってもらったティファニーのエングレービング、
ブルーのアイマスクやざっくりと羽織ったメンズシャツ・・・
挙げたらキリがないほど、女性にとって胸をつかまれるものばかり。
オードリー・ヘップバーンが着こなすスタイルは、どれも永遠の憧れ☆
小説では、また違ったアイテムが登場します。
そのひとつが、宮殿のかたちの鳥かご!
ポールが街角の骨董屋で見つけて忘れられなかったそれを、
クリスマスにホリーがプレゼントするのです。
350ドルもする鳥かごをもらったポールはびっくり。
でもホリーは「そんなの、お化粧室に行く時のチップ数回分よ」とあっさり。
そして、「何があってもこの中に生き物を入れない」ことを約束させるのです。
鳥のように常に自由を求めて飛び回るホリー。
いつか「安住の地」を、この世界のどこかに見出すことを夢見る彼女は
名刺に印刷された「旅行中(トラヴェリング)」の言葉どおり
人生を「まだ旅の途中」ととらえているのです。
そんな彼女がポールに、空っぽの鳥かごをプレゼントするというのは
ただ彼が欲しいものをあげたということ以上の意味があるはずです。
どんなに美しく、豪華で、素晴らしい住居があったとしても
自分はそんなものには囚われたくない、
いつも自由に自分の翼で、この大空を飛び回る存在でいたい、
ホリーのそんな気持ちを表しているように思います。
誰のものでもなく、自分の心は自分だけのもの・・・
ホリーの心の声が聞こえる気がしました。
3、心をつかむアイテム②聖クリストフォロスのメダル
さて、ポールのほうはホリーに何を渡したかというと。
小さな聖クリストフォロスのメダル。
なんとこのメダル、実際に当時、ティファニーで販売していたようです。
クリストフォロスはイエス・キリストを背負って川を渡ったという伝承があります。
きっとティファニーのメダルも、こんな感じだった・・・はず!?
聖クリストフォロスとは、3世紀の殉教者の一人で
旅の守護聖人。
正真正銘のティファニーで購入したものとはいえ、
若き作家のたまごであるポールが買ったものは、高価なものではなかったようです。
それでも、後に、生まれて初めて本気で好きになった青年に捨てられ、
街を離れることを決意したとき、ホリーはポールに言います。
私の部屋をひっかきまわして、あなたがくれた聖クリストフォロスのメダルを見つけておいて。旅行にはそれが必要だから。
(P160)
一世一代の旅立ちに、そして、人生という「旅」を自分らしく続けようとする彼女を
ティファニーの聖クリストフォロスは見守ったのです。
4、「オードリー・ヘップバーンの欠点は、完璧すぎること」byカポーティ
カポーティが小説の中で書いたホリー・ゴライトリーは、
斜視で、いろいろな色が混じった瞳をしています。
(村上春樹は、「斜視」という言葉ではなく「ぎゅっとすぼめた目」と書いています)
それを隠すためなのか、いつもかけている真っ黒い大きなサングラス、
口は大きく、鼻は上を向き、
そして、男の子のように短い髪の毛には、様々な色が混ざっている・・・
オードリーヘップバーンが演じたあの長い髪のホリーのイメージとはかなり
違います。
カポーティは最初、「ティファニーで朝食を」の映画化の話があった際、
オードリー・ヘップバーンよりもマリリン・モンローをイメージしたそう。
けれど、撮影が始まってみると、オードリーがホリー・ゴライトリーにぴったりだと
わかります。
カポーティは友人にこう語ったそうです。
「(オードリーには)唯一の欠点がある、それは完璧だということだ。
この欠点がなければ、彼女は完璧なんだが」
カポーティは、ホリーを「一点の曇りもない美しさ」ではなく
どこか欠落したものがあるけれど、それを魅力や天真爛漫さで愛らしさに変えるような
そんな女性として描きたかったのかもしれません。
しかし、映画はもちろん、大成功。
小説だけではなく、映画としても「ティファニーで朝食を」は
歴史に残る傑作となったのです。
5、最後に。 映画も、小説も・・・!!
「ティファニーで朝食を」は私の中で、とても特別な作品です。
私が憧れてやまないオードリー・ヘップバーン主演の映画で、
高校時代から何度も観た映画でもあるし、
そしてまた心を打つ文学作品でもあるのです。
小説を原作とした映画の中には、
「え!?私のイメージと全然ちがう・・・」とか
「映画(あるいは小説)のほうがいいなあ」とか
好みが分かれる作品も多々ありますが、この「ティファニーで朝食を」に限っていえば
私は、どちらも、それぞれに素晴らしいと思いました。
愛を直視することを恐れていたホリーが勇気を出して幸せを受け入れる決断をするハッピーエンドの映画か
心に孤独を抱えながらも自由を求めて旅を続けるホリーを描いた小説か。
あなたは、どちらがお好みでしょうか?
ぜひまた教えてくださいね☆
映画「ティファニーで朝食を」の猫。
猫にとっては、映画でも小説でもハッピーエンド。よかったね!
最後までお読み頂き、ありがとうございました☆
次回は「ティファニーで朝食を」に収められた表題作以外の短編について
書きたいと思っています。
よろしければ、またお読み頂ければ嬉しいです♪
<過去記事紹介>