Miyukeyの気まぐれブログ

愛媛県在住のアラフォー主婦です。本、洋画、訪れた場所などの感想を気まぐれに、かつ自由に綴りたいと思います☆笑顔の扉の”key"を見つけられる毎日になることを祈って♪現在は、仕事繁忙期のため月に2回の更新となっていますが、よろしくお願いいたします☆

短編集「ティファニーで朝食を」再読② カポーティの珠玉の短編に酔いしれる

研ぎ澄まされた文体で登場人物の心を描き出す

カポーティの短編集「ティファニーで朝食を」を再読しています。

前回は、表題作「ティファニーで朝食を」の感想や

映画と小説について書きました。

 

miyukey.hatenablog.com

 

今回は表題作を除いた3篇の短編についてご紹介したいと思います。

 

1、主人公は、カポーティ自身の姿か

 

この短編集に収められた4篇の短編に共通することは

主人公が暗い過去や恵まれない生い立ちを持っているということ。

盗みをしなければ生きていけないほど貧しい家庭の生まれだったホリー(「ティファニーで朝食を」)、

幼くして引き取られた一家に折檻をされ続けて娼館へ来たオティリー。(「花盛りの家」)

悪者を殺めてしまったばっかりに終身刑を言い渡され、生涯、刑務所にいることになったミスタ・シェーファー。(「ダイアモンドのギター」)

幼い頃に大病をして、背中がこぶのように曲がってしまった「親友」。(「クリスマスの思い出」)

彼らは、世間でいう弱い立場にある人々で、時に蔑まれます。

それでも、彼らは誰一人として、自分を卑下したり、自棄になったりはしません。

それどころか、明るく

今、自分が置かれている状況を楽しみさえしています。

そのしたたかさや強さが、とても心地よく思えます。

が、随所で、ちらちらと見え隠れする

過去の暗い記憶、心に抱える孤独や闇に、胸打たれます。

 

 

 

カポーティ自身もまた、恵まれない幼少期を送りました。

幼い頃に両親が離婚、恋人が絶えなかった美しい母親からは愛を得られず

遠縁の親戚の家に預けられます。

その家で暮らした50歳以上も年の離れた従妹を唯一の友人として

過ごした少年時代。

その頃のことは、この本に収められた「クリスマスの想い出」をはじめ

「感謝祭の客」や「あるクリスマス」にも描かれています。

特に両親に対して複雑な感情を持ち、周りにもなじめなかったカポーティ

作家になって大成功をおさめた後は、その頃の自分を振り払うかのように

パーティーに明け暮れ、社交の場で華やかな生活を送ることになります。

その一方で、晩年はアルコール依存症と薬物中毒に悩まされていました。

明るく華やかな世界に身を置くものの

人知れず心の中の孤独や陰に震えている・・・

そんなカポーティの姿は、「ティファニーで朝食を」のホリーや

「花盛りの家」のオティリーの中に見ることができるのです。

 

華やかな社交の場では明るく振る舞いながらも、カポーティは内面の闇を見つめ、書き、そしていつしか溺れていった。

 

2、「花盛りの家」

 

まばゆいばかりに美しく若いオティリーは娼館の人気者。

ところがある日、一人の青年に出会い、恋に落ちます。

娼館を出て結婚を決意したオティリーに待っていたのは、

意地の悪い義祖母との確執。

オシャレなドレスやアクセサリー、シルクの靴とは無縁の

田舎暮らし。

娼館にいた頃の親友たちがオティリーの住む家へ来て

詰め寄ります。

大金持ちの男性たちにチヤホヤされ、美しく洗練されたものに囲まれ

好きなだけお金を手に入れられた娼館での暮らしを

なぜ捨てたのか、と。

華やかな世界で決して満たされなかった「何か」を見つけたオティリーが

最後に選んだものは??

シンプルだけれど、人生の本質を描いたストーリーだと思います。

そして、描写が美しく、この作品全体から花の香りが漂ってくるような

かぐわしい一篇。

私が初めて読んだ学生時代の頃には、ぴんとこなかったのですが

結婚をして家庭を持ったいま、とても心に響くものがありました。

何度も読み返したい一作です。

 

 

3、「ダイアモンドのギター」

 

初めてこの作品を読んだのは、高校生の頃でした。

当時は、短編集の中でも、一番、印象的で好きだったのがこの作品でした。

「殺されても文句の言えない男」を殺したばかりに「懲役九十九年プラス一日の刑」を

課されたミスタ・シェーファーが、

刑務所に入って来たばかりの新入りの青年と脱走するシーンでは

私もぐっしょりと手に汗を握ったのを覚えています。

ダイヤモンドのギターを持って現れたキューバ人のティコ・フェオへの

ほんの短い、つかの間の友情と恋心は

塀の外の陽気で平穏な生活など忘れてしまおうとしていたミスタ・シェーファーの心に

柔らかな風を吹かせるのです。

彼が背負わなければならなかった運命、

塀の中で失われていった若さ、そして若く美しい青年への感情。

切ないけれど、とても心に響く美しい一篇です。

 

4、「クリスマスの想い出」

 

僕の親友は高らかにこう告げる。「フルーツケーキの季節が来たよ!私たちの荷車をもってきておくれよ。私の帽子も探しておくれ」と。まるで自分のその一言によって、胸おどり想いふくらむクリスマス・タイムの幕が公式に切って落とされたかのように。(P237)

 

カポーティの少年時代の想い出をベースに描かれた作品。

本作に登場する「親友」は、カポーティが幼少期に預けられた家の、

祖母と言ってもおかしくないほど年の離れたいとこ、ミス・スックをモデルにしていると言われています。

カポーティ自身が投影された孤独で多感な少年「僕」。

彼が心を分かち合える唯一無二の存在である「親友」は、

60代の老婆で、子供時代に大病をしたせいで背中がこぶのように曲がっている

無邪気で子どもの心を失わない人。

11月、きりりと冷たい晩秋の朝にミス・スックが

「ほら!フルーツケーキの季節が来たよ!」と叫ぶと

フルーツケーキ作りが始まります。

小銭を集めて材料を買うお金をねん出したり

インディアンの家に酒の瓶を買いに行ったり、

ワクワクするクリスマス準備の想い出が語られます。

特に森の中にツリーを切りに行く場面は美しい。

鳥の飛び立つ音が静寂を破り、

凍てつく寒さの中で様々な生き物たちに出会います。

モミの木のむせかえるような匂いの満ちる森の中。

ミス・スックと巨大なツリーを運んで我が家に帰る幸福感。

彼女が「ぼく」にとって、どれほどかけがえのない存在であったか、

どれだけお互いを必要としていたか、その想いが伝わってくるラストに

胸が熱くなります。

 

この作品は、「クリスマスの思い出」として挿絵つきの

一冊の本もでています。

挿絵は銅版画家の山本容子さん。

 

 

カポーティは、ミス・スックと「ぼく」の話を

「感謝祭の客」「あるクリスマス」という短編にも書いています。

この2編は、「クリスマスの思い出」を含む6編を収めた「誕生日の子どもたち」という短編集で読むことができます。

こちらも、すごーーくおすすめ!

 

この表紙の青年は、20代前半のカポーティ自身だそうです。

 

 

5、最後に  時代を経ても色褪せないもの

 

愛と自由、家族、恋、イノセンス、そして人生そのものを

美しく研ぎ澄まされた文体で描く4篇の小説は

時代が変わったいまも、全く色褪せることなく

読者の心を掴み、感動を呼び起こします。

また、訳者・村上春樹の軽やかで洗練された訳文は、まさに現代に合っていて

カポーティの世界観を表現するのにぴったりだとも思いました。

村上春樹は高校時代に初めてカポーティの原文を読んで

「こんな文章は自分には書けない」と自信を無くした結果

29歳まで小説を書かなかったのだと、巻末の「訳者あとがき」で語っています。

様々な作家に影響を与え、文学史に名を残したカポーティの名作が詰まったこの本は

これからも何度も読み返したい大切な一冊となりました。

このクリスマスシーズンにぴったりの短編集です。

カポーティから、いまを生きる私たちへのクリスマスプレゼントみたい!?

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

<過去記事紹介>

 

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