青春、と聞いて、あなたなら、どんな匂いを思い出しますか?
さわやかな香り?甘酸っぱい香り?
背伸びをしてつけた香水の香りか、
それとも毎日打ち込んだ部活の汗の匂いか。
どんな匂いだったとしても、
それは、たった一度しかない人生の
ほんの一瞬のきらめきの匂い。
かけがえのない時間の匂い。
映画「タナー・ホール」を観て、
そんな青春時代の匂いを思い出しました。
ちょっと青臭くて、気恥ずかしくて、胸をつかまれるような痛みと
切なさと、喜びが入り混じった時、青春。
今回は、いま、まさに青春を駆け抜けている少年少女たち、
そしてまだいまも、
心のどこかに、かつての青春時代の自分を持っている方々に
おすすめの一作をご紹介します。
ネタバレはありませんので、安心してお読みください。
1、映画「タナー・ホール」
2009年 アメリカ 製作
出演: ルーニー・マーラ, ジョージア・キング, ブリー・ラーソン, エイミー・ファーガソン, トム・エベレット・スコット
舞台は、歴史的建造物タナー・ホール。
タナー・ホールは、全寮制の女学校。
16~17歳の少女たち4人の青春の日々を切り取った映画です。
2、豪華な俳優陣
見どころのひとつは、豪華な俳優陣の
若さあふれる姿です。
「キャロル」でアカデミー賞助演女優賞候補になったルーニー・マーラや
「ルーム」でオスカー女優となったブリー・ラーソン、
ドラマ「デスパレートな妻たち」のショーン・パイフロムなど、
いまは大物になった俳優陣が、揺れ動く少年少女の想いを好演しています。
私が大好きな冒頭のシーン。
ルーニー・マーラ演じるフェルナンダが、夏休みを終えて全寮制のタナーホールに帰って来ます。
車の窓ガラスに写る初秋の木々と、アコースティックな音楽、
ルーニーの表情が美しすぎるワンシーン。
「魅力的なことって ちょっと怖い」というモノローグも、
この映画を象徴しています。
ケイト役のブリー・ラーソンはお色気部門担当。
フェルナンダにお化粧を指南してあげるシーンは、キュートすぎる。
死に強く惹かれる、ワルのヴィクトリア役(左)は
スコットランド女優ジョージア・キングが好演。ラストシーンの演技が光ります。
ルカスタ役(右)を演じるのはシンガーソングライターの
エイミー・ファガーソン。ピアノを弾くシーンは、さすがの迫力。
3、青春時代ならではの痛みと失敗
この映画では、仲良しの4人の少女全員が
心のどこかで傷を抱えています。
後から考えて、若い頃は、どうしてあんなことしちゃったんだろう!?
と思うことは、ありませんか?
私は、あります。
そして、まさに、「タナー・ホール」の少女たちも
若いからこその過ちをし、
ひどく後悔をしたり、傷ついたり、優しくなれなかったりするのです。
繊細な少女たちの心のひだと、
若い体からほとばしるようなエネルギー。
いつか、私の内側にも確かにあった
あの痛みと切なさと初々しさが
スクリーンの中から伝わってきて、
懐かしさとともに胸を揺さぶります。
4、美しすぎるラストシーンが印象的
ここからは少しネタバレを含みます。
気になる方は、5、最後に へ飛んでください。
時は、秋。
燃えるような赤や黄に紅葉した木々の中の
寂しい墓地で、
フェルナンダ(ルーニー・マーラ)と
ヴィクトリア(ジョージア・キング)が話すシーンで
この映画は終わります。
彼女たちは幼馴じみなのですが、
実は、フェルナンダは
平気で悪さをしてしまう常識破りなヴィクトリアが苦手。
けれど、あるパーティーに参加した時、
ヴィクトリアが幼い頃からずっと抱えていた問題を
初めて知ることになります。
ラストシーンは、誰も入っていない穴の開いた墓地の前で
ヴィクトリアが、自分の過ちをずっと気に掛けていたことを
フェルナンダに打ち明けます。
強がっていたヴィクトリアが、初めて弱さを見せるシーンです。
ずっとワルだったヴィクトリアにも、そうせざるをえない、
そうしなければ生きてなどいられない事情があったと知るフェルナンド。
ヴィクトリアは、空を見上げ、
今日は葬式にピッタリな美しい日だと言います。
「こんな日に、私を埋葬して。」
と頼むヴィクトリア。
実は彼女は、
自殺未遂で学校を追放された過去を持ち、
毎晩、リストカットを繰り返す「死」に途方もなく惹かれている女の子。
そんなヴィクトリアに、フェルナンドは
「死なないで」でも「自殺なんてしちゃだめ」でもなく
ただ「わかった」と言います。
真顔で、うなづきながら「わかった」と。
その一言に、フェルナンドのヴィクトリアに対する
真摯な深い友情を感じました。
紅葉の中、タナーホールに帰る二人の姿とともに
流れるフェルナンダのモノローグは
心を打ちます。
お互いの暗い部分を知り
なぜか救われた
2つの負はプラスに転じる
暗闇に目が慣れるように。
5、最後に 青春時代の自分に再会できる
美しい映像美とともに、青春時代の少女たちの
繊細な心を写し取った「タナー・ホール」。
柔らかく若い心についた傷口が、
きっと彼女たちを成長させるのだと
アラフォーになった私にはわかるけれど、
青春を突っ走っている真っ最中の彼女たちには、
まだわからない。
だって、走り抜けることに無我夢中、必死だから。
私もそうでした。
忘れかけた「あの頃の自分」に出会える一作です。
いまの心が、どんなにカサカサしていようと
大丈夫、まだ、心の中には、
あのみずみずしい時を駆け抜けた私が生きていたのだと、
懐かしく、嬉しく、心が揺さぶられました。
あなたが出会う「あのころの自分」は、
どんな顔で、どんな声をかけてくれるでしょうか。
機会がありましたら、ぜひ、観てみてください。
おすすめです。
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