秋の夜長、どう過ごされていますか?
温かいミルクティーでも片手に、眠る前のほんのひと時を
ゆったり過ごすのに、読書は最適です。
ちょっと不思議で温かいストーリー、
「雲と鉛筆」(吉田篤弘)をご紹介します。
鉛筆工場で働いている「ぼく」は屋根裏部屋に住んでいます。
毎日、雲の絵を描き、遠い街に住む姉に手紙を書き、
散歩をする・・・
登場人物は
いつも人生の話ばかりをしている友達「人生」、
利便性を追求した商品を売り歩くセールスマンの「ジュットク」
気が短いけれど腕は確かな理容師の「バリカン」
いつも眠気を我慢している茶葉の店の店員「アクビ」。
これは小説のようで小説ではなく、
詩のように美しい文体で語られる
いわゆる哲学書のようなものなのかもしれません。
あらすじだけを追うのなら30分ほどで読めてしまうでしょう。
でも、それぞれの登場人物が語る言葉のひとつひとつに
立ち止まり、自分に問いかけ、
その言葉の裏にある本当の意味を考えるなら、
この本は味わい深く、何回でも読み返したくなる一冊となるにちがいありません。
人生にそっと寄り添ってくれる友達のような一冊に。
私が好きだったのは
主人公が雲を描きながら「四十八茶百鼠」という言葉を
思い出すシーンです。
茶色は48種類、鼠色は百種類もの色合いがあるという意味なのだそうです。
しかし、それは言葉の綾で、実際は、
茶色も鼠色も百以上の種類があるのだというのです。
なぜそんなにたくさんの鼠色が生まれたのか??
それは江戸時代、
奢侈禁止令(「庶民は贅沢をしてはならない」という御触れ)が
出され、
庶民は着物の色や柄に豪奢な色を使うことを禁じられたことに
端を発するのです。
そこで庶民は使用を許された鼠色に少しずつ色を加え、
鼠色の中でも微妙に異なる色合いを楽しむことにしたのです。
「葡萄鼠」「桜鼠」「利休鼠」・・・次々生み出される鼠色を
身に纏う江戸っ子たち。
「本当に粋なのはモノトーンだ」
「色を禁止するなんて野暮な話だ」
と、お上に反発、御触れを逆手にとってみせたのです。
物語の中では、こう締めくくられています。
白でも黒でもない。
そのあいだにあるもの。
白と黒のあいだには百通りの鼠色を育んだ豊かな可能性があった。
とかく「白黒はっきりしない」と揶揄され、
「グレーゾーン」と云えば、曖昧であったり、
疑わしいときに用いられるのが常だが、
白黒はっきりしない美しさがあるのだと雲を描きながら
しばし考えた。
(引用:雲と鉛筆 (ちくまプリマー新書) P76
黒と白の間にあるもの。
曖昧さの中にある美しさ・・・
見えにくいけれど目をこらせば見える、
立ち止まれば気付けるものに
時には目を向ける余裕を持ちたいと感じました。
日本人が古くから大切にしてきた「曖昧さ」に目を向ければ、
また新しい視点が生まれるかもしれません。
今日から10月。
これからどんどん秋が深まっていきます。
考えることも大切だけれど、
眉間にしわを寄せて考えても解決しないこともある・・・
それなら、考えずに「感じて」みれば、
うまくいくのかもしれない。
そんなことを気付かせてくれる一冊でした。
シンプルなストーリーの
行間に、もしかしたら、あなたの幸せのヒントが隠されているかもしれません。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
<秋に読みたい過去記事>
今週のお題「眠れないときにすること」