美しい景観やかわいいお店、
おいしいご飯やスイーツなど、
旅は、新しい発見でいっぱいです。
目に見えるものに気をとられて、
私はいつも旅先で、大切なものを感じることを忘れがち・・・
・・・それは、「空気」!!
小説やエッセイを読んでいると、作家たちは
実に敏感に、その場所の「空気」を感じ取っています。
訪れたことがある場所を舞台にした本を読む度、
「ああ、そんな捉え方もあったのか!」「気付かなかった!」
「そういえば、あの時・・・」と、新たな発見があります。
いま、旅行に行きたいけれど行けない方も
一緒に本の中に描かれた「空気」を味わって
旅をしてみませんか?
今日は、3冊を取り上げ、ご紹介したいと思います。
☆目次☆
☆兵庫と東京
☆河口湖
2、小川糸「今日の空の色」
☆鎌倉と東京
☆沖縄
4、最後に
☆「細雪」とは
1936年(昭和11年)秋から1941年(昭和16年)春までの大阪の旧家を舞台に、4姉妹の日常生活の悲喜こもごもを綴った作品[1]。
阪神間モダニズム時代の阪神間の生活文化を描いた作品としても知られ、全編の会話が船場言葉で書かれている。
上流の大阪人の生活を描き絢爛でありながら、それゆえに第二次世界大戦前の崩壊寸前の滅びの美を内包し、挽歌的な切なさをも醸し出している[2]。
抜粋:
☆兵庫と東京
photo by フリー素材PIXABAY https://pixabay.com/ja/
美しい4人姉妹の豪華絢爛な日々と命運を描いた「細雪」。
長女・鶴子は、夫の転勤により、
37歳にして初めて生まれ育った大阪を出て東京に移り住みます。
三女・雪子も鶴子とともに東京で暮らすことに・・・
しかし、次女・幸子、幸子の夫・貞之助、その娘・悦子、四女・妙子と一緒ににぎやかに
芦屋(兵庫)で生活していた雪子にとって
東京での日々は苦痛に満ちたものになります。
現在のように新幹線もなかった時代、
東京と大阪間は超特急「燕号」で約八時間。
格式の高い旧家のしきたりの軋轢に苦しみながら、
雪子は、一人、故郷の関西を懐かしんで耐え忍びます。
下の会話は、久しぶりに雪子が見合いのために芦屋へ帰り、
幸子と貞之助と共に暖炉を囲んで話すシーンです。
「温い(ぬくい)わなあ、此方は。さっき蘆屋(あしや)の駅へ下りた時にやっぱり東京と違うなあ思うたわ」
「もう関西はお水取りが始まってるさかいにな」
「そない違うか知らん」
「えらい違いやわ。第一空気の肌触りが、こない柔らかいことあれへん。何せ名物のからッ風がひどうて、二三日前にも、高嶋屋へ買い物に行って、帰りに外濠線の通りに出たら、さっと風が吹いて来て持ってる包(つつみ)吹き飛ばしてしまうて、それ追いかけて取ろうとすると、ころころと何処迄でも転んで行くよってに、なかなか取られへんねん。そのうちに着物の裾が又さっとまくれそうになるのんで、片っ方の手でそれも押さえてんならんし、ほんに、東京のからッ風云うたら噓やない思うたわ」
抜粋:
また、幸子が、渋谷に住む鶴子と雪子を訪ねた際には、
京都や大阪にはない東京の景観の素晴らしさを認めたうえで、
次のように書かれています。
しかし正直なことを云うと、彼女はそんなに東京が好きなのではなかった。
(中略)銀座から日本橋界隈の街通りは、立派といえば立派だけれども、
何か空気がカサカサ乾枯(ひか)らびているようで、彼女などには住みよい土地とは思えなかった。
(中略)何処かしっとりとした潤いに欠けてい、道行く人の顔つき一つでも変に冷たく白ッちゃけているように見えるのは何故であろうか。
幸子は自分の住んでいる蘆屋あたりの空の色や土の色の朗らかさ、空気の肌触りの和やかさを思い浮かべた。
抜粋:
私も実家が大阪なので、東京・大阪間、そして兵庫をよく行き来しますが
「空気の肌触り」といったものを意識したことがありませんでした。
もちろん戦前と現在では、何もかもが変わっています。
空気も変わったでしょう。
けれど、もし目に見えない空気というものを意識したなら、
今でも感じ取れることが、たくさんあるかもしれません。
山の頂上、森の中だけではなく、
都会であってもその場所ならではの「空気」があるはずです。
マスクをしなければならない今だからこそ、
五感をフルにして感覚を研ぎ澄ませることが大切なのではないでしょうか。
☆河口湖
類まれなる美女でありながら、ことごとく見合いに失敗する雪子と
男性関係のゴシップが絶えない妙子。
そんな二人の妹のために奔走する幸子を慰労するため、
夫の貞之助が連れて行ったのが、河口湖。
富士ビューホテルの客室の窓からそびえる富士山を眺めながら、
童心に帰る幸子。
娘の悦子も預け、久々に夫婦だけの時間を満喫する二人の描写は
とても美しく微笑ましいものです。
何処か日本の国でない遠い所へ来たような気がしたが、
それは眼に訴える山の形や水の色が変わっているからと云うよりは、
むしろ触覚に訴える空気の肌ざわりのせいであった。
彼女は清冽な湖水の底にでもいるように感じ、炭酸水を喫するような心持であたりの空気を胸一杯吸った。
引用:
目の前に迫る富士山と、それを映す湖の美しさだけではなく
空気を感じ、それをあますところなく表現した
文豪・谷崎潤一郎。
谷崎潤一郎は、自身も富士ビューホテルに宿泊し、
「細雪」を執筆したと言われています。
作中の幸子は、谷崎潤一郎の妻・松子夫人がモデルと言われているので
きっと、「細雪」に描かれているような幸せな時間を
谷崎自身も過ごしたのではないでしょうか。
谷崎潤一郎が愛した富士山と、その空気。
次に河口湖を訪れたなら、幸子になりきって
「炭酸水を喫するような心持で」深呼吸してみるのもいいかもしれません。
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細雪(上) (新潮文庫) 細雪(中) (新潮文庫)細雪 (下) (新潮文庫)
2、小川糸「今日の空の色」
「食堂かたつむり」「つるかめ助産師」「ライオンのおやつ」など
デビュー以来、数々のベストセラー小説を生み出している
作家・小川糸さんの日記エッセー。
東京の自宅を離れ、
ひと夏を鎌倉で過ごすことを決意する作者。
山と海に囲まれた古い一軒家を借り、
新しい生活がスタートします。
☆鎌倉と東京
今回は、約4か月の鎌倉生活を終え、
東京に戻ってきた作者が、鎌倉を懐かしく思い出す場面をご紹介します。
東京での暮らしに戻って一週間が経った。
少しずつ東京時間の感覚が戻って来る。
それまでは当たり前だと思っていた東京の空気だけど、鎌倉で4か月を過ごしたら、とても軽く感じるようになった。
ふわふわとして、上質な羽毛のようなのだ。
それに較べると、鎌倉の空気は水分を多く含んでいる。
鎌倉に遊びに行った人が、よく、雰囲気が重い、などと口にするけれど、あれは本当に空気が重いのだと思う。
(中略)場所にもよるのだろうけれど、湿気は鎌倉の名物。
みなさん、そういうのを克服して、それでも愛情を持って鎌倉に住んでいらっしゃる。
その、きりりとした生きる姿勢が、まぶしくて恰好よかった。
引用:
南に海、三方を山に囲まれた地、鎌倉。
実は、私は先日、鎌倉を訪れたばかり。
街の中心から少し離れると、
自然がいっぱいで人も少なく、
同じ街とは思えないほど静まりかえっています。
空気は澄み渡っていて、
木々や海の匂いをいっぱいに含んでいました。
でも、「空気の重さ」というものは感じることができませんでした。
私には感性の鋭さが足りないのかもしれません^^
「上質な羽毛のよう」な東京の空気。
どっしりと重い鎌倉の空気。
いつか感じ取ってみたいものです。
朝、辞書を手に取ってページをめくったら、ふわり。
懐かしい匂いがした。
そんな所にまで、鎌倉の空気が隠れていたとは。
空気って、その空間に身を置いて呼吸をしている時は
無色透明で気づかないけど、
場所を変えて出会うとすぐにわかる。
匂いって、本当に魔法みたいだ。
どこでもドアみたいに、瞬時に、その場所へ連れて行ってくれるんだもの。
引用:
空気は、どこにでも潜んでいます。
ふっと開いたアルバムに。本に。服に。引き出しに。
その空気の匂いを嗅ぐだけで、
その頃の自分、その時いた場所、考えていたことや感情が
鮮やかに思い出されるものです。
いつか、今の生活を、懐かしく思い出すことがあるとしたら、
その空気はどんな匂いをしているでしょうか。
今がたとえ辛く苦しかったとしても、時は過ぎていきます。
その時、自分ができるベストを尽くしたと思えるように
毎日を過ごしたいものですね。
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最後に私が大好きな沖縄の空気をお届けします。
沖縄へ行く前には必ず読み返す
沖縄を舞台にした短編5編が収録されていますが、
今回は表題作を取り上げます。
☆沖縄
離婚の傷が癒えない元・女優のアラサー女子、「私」。
都会の喧騒の中、神経がすり減っていく日常に嫌気がさした「私」は
沖縄へと旅立ちます。
豊かな自然とゆったり流れる時間の中で本来の自分を取り戻した「私」は
沖縄で新しい恋を見つける・・・
表題作「なんくるない」は、そんなストーリーです。
私はサンダルにはきかえて、小さいバッグをひとつだけ持って、
ホテルから出た。
空気がむわっとして、顔にまとわりついてくるようで嬉しかった。
まるで龍かなにかの熱い息みたいに、
昼の熱かった空気がそこここで息づいていた。
引用:
この一節を読んだだけで、沖縄のあの熱い空気を思い出して
わくわくしてしまいます。
沖縄は空気にも、風にも、木にも、海にも
いたるところに大きな目に見えないエネルギーが潜んでいるような場所。
沖縄の空気だけは、他のどこの地よりも違う、そんな気がします。
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5、最後に
作家たちが愛し、作品の中に閉じ込めた空気。
それは、読んでいる私たちをも、その地へと運んでいってくれます。
本を読むことで旅をしている気分になり、
次はどこの空気を吸いに行こうかな?と計画を立てるのも
楽しいですね。
今年は、いままでにないほど「空気」というものを
意識する年だったのではないでしょうか。
飛沫を防ぎ、換気をし、密を避ける。
その一方で、マスク越しにしか「空気」を味わえないという現状もあります。
そんな時だからこそ、五感を研ぎ澄ませて
「感じること」が大切なのだと思います。
なかなか思うようにお出かけできない今ではありますが
いま、この場所にある空気を味わってみる・・・というのもいいかもしれません。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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