ソフィアコッポラの「マリー・アントワネット」。
史実を求める人に、この映画はおすすめできない。
といっても、そんな人は、冒頭から鳴り響くロックミュージックに面食らうだろう。
「マリー・アントワネット」にロックミュージック?
似合わないにもほどがある、と。
でも、この作品は「ソフィア・コッポラのマリー・アントワネット」なのだ。
史実がどうの・・・ではない。
彼女が監督をつとめた「ロスト・イン・トランスレーション」、「ヴァージン・スーサイズ」、
近作の「ギガイルド」全作に言えることだが、
彼女の一番の得意とすることが、「心のひだを映像にすること」・・・。
私はそう思っている。
前述の作品の中で、主人公の「孤独」や「悲しみ」「切なさ」、
つまり心の闇にスポットをあて、それを映像美で巧みに表現してきた。
そのことにかけて、ソフィア・コッポラの右に出るものはいないだろう。
本作も例外ではない。
そこに描き出されているのは「フランス王妃マリー・アントワネット」ではなく
わずか14歳でオーストリアからフランスに嫁ぎ
フランス王妃として生きねばならなかった、
たった一人の「少女」、生身の「女性」の、
孤独、苦悩、退屈、空しさ、息苦しさ。
そしてそれに目を向けたくない、まぎらわしたい、
ただ生きるためにまぎらわさざるをえなかった彼女が溺れていく快楽。
・・・といっても、本作はいわゆる「暗い」映画ではない。
たくさんのマノロ・ブラニクの靴や
山ほどのお菓子、(とくに色とりどりのマカロンやゼリーが印象的!)を
ヴェルサイユ宮殿に運びこんで撮影されたことでも有名だ。
全編を通して流れるポップミュージックにのせて彩られるカラフルなお菓子たち、
おしゃれな靴の数々は、
マリー・アントワネットを描く映画としてはとても斬新だ。
ギャンブル、お菓子、お洒落三昧の日々、甘い恋。
乙女心をわしづかみにするキュートでキャッチーな美しさであふれている。
マリー・アントワネットの笑顔と、色彩豊かでガーリーな贅沢品。
その奥に見えかくれする彼女の退屈と空虚さと軋轢の描き方が見事だ。
ヴェルサイユ宮殿をロケ地としたにもかかわらず、
本作は いまひとつフランスの香りがしない。
主演キルスティン・ダンストをはじめ、主要キャストのほとんどがアメリカ人で、
作中で話されるのは、もちろん英語、
サントラは英語のロックやポップスなのだから、アメリカ色が強くて当たり前だ。
ソフィア・コッポラは、実際のヴェルサイユ宮殿でロケを行うことにこだわりはしたものの、
きっと「フランスらしさ」なんてどうでもいい、と思ったのかもしれない。
「一人の生身の女性の心のひだを映し出す」という大きなテーマの前で、
国なんか、そして史実ですら、大した問題ではない、と。
本作は、ソフィア・コッポラらしい、カラフルでキュート、大胆で斬新でありながら、これ以上ないほどにマリー・アントワネットの心の闇を映し出した名作だ。
- アーティスト: Various Artists
- 出版社/メーカー: Universal Music LLC
- 発売日: 2014/01/30
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自分にご褒美のケーキを食べながら、素敵なマリー・アントワネットの映画に酔いしれるのはいかがですか?